1000字の花束

独占

 制服の襟をくつろげて、滑らかな白い肌に唇を寄せる。布の下に隠された、日ごろ他人が目にすることはないであろう場所。
 噛むようにきつく吸い上げれば、細身の身体がぴくりと小さく震えた。身を固くして息を詰める、朝露に濡れたような瑞々しさを持つ紫色の薔薇。
「痛かったか?」
「——いえ。……ですが、なぜ」
 困惑した表情で見上げてくる青年の首元には、誰が所有者かを主張するような赤い花が咲いていた。跡をつけた男は満足したように薄く嗤う。
「アンジェロ」
「はい」
「わたしのことが好きか?」
 問われた青年は形の良い眉を寄せ、長い睫毛をそっと伏せた。
「————、お慕い、しています」
 躊躇いがちに舌に乗せられた言葉は、問いに答えているようで遠い。
 男は小さく溜息をついた。気を悪くさせたかと焦る青年が、取り繕うように言葉を重ねようとする。
「その、わたしは——ぁ」
 形の良い顎をとらえ、紡がれる言葉を舌先で絡め取る。誤魔化す言葉が聞きたいわけではなかった。ちゅぷ、と湿った音が響き、青年の目尻がうっすらと染まるのがわかる。
 おずおずと伸ばされた腕が首の後ろにまわされるのを待って、男はそっと唇を離した。
「アンジェロ」
「——はい」
「もう一度聞く。わたしのことが好きか?」
「…………わたし、は、」
 聞かなくてもわかっている。
 視線で、気配で、表情で、溢れる思惟で、彼の想いはわかっている。
 汚れた世界を焼き払う棄民の王、赤い彗星の再来。スペースノイドの総意の器は、只一人のための神たり得ない。ならば選べなかったほうの願いは、閉じて宇宙へと流すしかない。
 ——だが、そんなことはないのだ。
 希むものを余すことなく手に入れてこそ、すべてを奪われ踏みにじられた、あの日の少年の復讐は叶う。連邦から、地球居住者から——宇宙移民からも、目の前の仮面の男からすらも。貪欲に、傲慢に、何もかもを手にしてこそ、彼の魂は救われうる。
 だから。
「すべてを求めたまえ、アンジェロ大尉」
 涼やかに耳を擽る声に、迷いを含んだ紫の瞳がせつなげに細められる。男はゆっくりとマスクをはずし、青年と同じように襟元を開いてみせた。
 青年の薔薇色の唇が、魔法にかけられたように男の首筋へと吸い寄せられる。
 
 
「……————わたしは、大佐を、」