余韻
甘い倦怠感を訴える身体をシーツの上に横たえて、隣にいる美丈夫の顔を見上げる。
鍛え上げられた肉体に上質なガウンを羽織った男は、半身を起こしてヘッドボードに背中を預け、片手で持ったタブレットに視線を落としている。薄暗い中、タブレットの画面が放つ仄かな光に照らし出された男の顔に、アンジェロは心のなかでそっとため息をついた。
マスクの下の美しい素顔が目の前に晒されている。自分だけが知る上官の姿に、とろけるような優越感が全身を満たす。
——大佐ほど美しい人間は、この世のどこにも存在しない。
棄民の王という尊い立場にありながら、夜には愛を交わす恋人へと姿を変える。情事の後、うっとりと余韻を楽しむこの時間がアンジェロは好きだった。
タブレットに視線を落とす、長い金色のまつげに縁取られた蒼い瞳。通った鼻筋、その下の形の良い唇。先ほどその唇で、全身余すところなく触れられたことを思い出す。髪から額、頬、唇、首筋、胸元……指先から爪先まで、くちづけを落とされるたび身体に走った甘い痺れ。
手袋をしていない指先がタブレットの画面を滑る。シナンジュの操縦桿を握り息を呑むほどの鮮やかな挙動を見せる、魔法のような手だ。肌に触れる手のひらは少し乾いた感触で、指先の動きは大胆さを持ちながらも繊細だった。入口をゆっくりと丁寧にほぐした長い指先が身体の中へと潜り込み、腹の内側を焦らすように何度も掠めたのが思い出されて、アンジェロは小さく熱い息を吐いた。
耐えきれずにこちらからねだるまで、ゆるゆるともどかしい快楽を引き出す行為が記憶に蘇り、身体の内側にじんわりと熱が灯る。こらえきれずに求めれば昂りは深く埋め込まれ、たっぷりと焦らされた身体は貪るように受け入れて吸い付いたのだった。普段は涼やかに響く声音が甘さを纏った呻きに変わるのと同時に、奥で熱を受け止めて————
「なんて表情をしている?」
含み笑いの混じった低音に、我に返って顔を上げた。タブレットに落とされていたはずの蒼い眼差しは、いつの間にか、からかうような色を浮かべてこちらを見ている。
瞬間的に頬が熱くなり、アンジェロはいたたまれない気持ちで頭までシーツを被った。どんな表情をしていたかなんて自分でわかるはずもないが、とんでもなく淫らで、はしたなく、物欲しそうな顔をしていたに違いない。
柔らかな布の向こうから、再び小さな笑い声がする。
「顔を出しなさい、アンジェロ」
「……っ、いえ、お仕事の邪魔をしてしまい……」
「おまえの顔が見たい、と言っているんだよ」
甘い誘いを断ることもできずに、そろりとシーツから目もとを覗かせると、穏やかに笑う金色の恋人——フル・フロンタルと視線が合った。
「すまない。物足りない思いをさせた」
「そ、そのようなことは、決して……!」
焦ってがばりと身を起こすと、フロンタルは手にしていたタブレットをサイドボードへと置き、空いた手でアンジェロの髪を掬う。そのままゆるりと頬を撫で、身体をずらしてアンジェロを胸元へと抱き込んだ。
「た、大佐、」
横たわったフロンタルの身体の上へと覆いかぶさるような形に抱き上げられて、思わず上擦った声が出る。触れ合ったところから、フロンタルの身体も確かに緩やかな熱を帯びてきていることが伝わっていて、アンジェロの心臓が大きく跳ねた。
「朝まで、まだあるな」
笑みの形に引き上げられた唇から紡がれる、密やかな愛の言葉。
アンジェロは一度つよく目を閉じると、触れた肌から感じる熱さに背を押されるように、愛おしい唇にそっと自分の唇を重ねた。